認知症の治療では、中核薬によって胃腸障害を引き起こすことがあります。その際、ADLを維持したまま追加で使用しやすい漢方薬である、抑肝散加陳皮半夏のBPSDや攻撃性に対する効果を紹介します。
認知症やBPSDとは?治療法について
認知症患者は、単なるもの忘れとは異なり、記憶障害および、記憶以外の失語、失行、失認、遂行機能障害のいずれかを伴います。
さらに、認知症で問題になるのは、認知症に伴う行動異常と心理症状です。
この行動異常と心理症状を合わせてBPSD[behavioral and psychological symptoms of dementia]と言います。
認知症やBPSDについては、コチラのページで解説しています。
認知症の予防や治療では、アリセプトやメマリーなどの中核症状改善薬とBPSD周辺症状改善薬が使用されます。
また、BPSDの治療薬を使用するとふらつきなどの副作用や活気がさがることによりADLの低下が生じやすいため、漢方薬の使用が注目されています。
今回は、漢方薬の中で最強の補剤とも呼ばれる「抑肝散加陳皮半夏」の臨床データを紹介します。
抑肝散加陳皮半夏の生薬成分:抑肝散との違い
抑肝散加陳皮半夏は9種類の生薬成分から成っています↓
甘草 | 川芎 | 当帰 | 半夏 |
蒼朮[ツムラ] 白朮[クラシエ・コタロー] | 釣藤鈎 | 柴胡 | 陳皮 |
茯苓 |
ツムラでは蒼朮、クラシエやコタローでは白朮が配合されてます。
代表的な漢方である抑肝散と抑肝散加陳皮半夏と比較してみましょう!
抑肝散と抑肝散加陳皮半夏との比較
甘草 | 川芎 | 当帰 | 半夏 |
蒼朮[ツムラ] 白朮[クラシエ・コタロー] | 釣藤鈎 | 柴胡 | 陳皮 |
茯苓 |
黄色の7種類の成分が抑肝散であり、名前の通り半夏と陳皮を加えると抑肝散加陳皮半夏となります。
陳皮や半夏は漢方医学的に「化痰・止嘔」=痰の生成抑制、蠕動の調節により消化吸収を補助効果があります。
そのためアリセプト[ドネペジル]などの服用により、消化器症状の副作用が出た認知症患者に適しています。
抑肝散加陳皮半夏とBPSD
クラシエの抑肝散加陳皮半夏によって、臨床試験が行われています。
平均年齢76.9歳の高齢者32人を対象に臨床試験を行ったデータを紹介します。
抑肝散加陳皮半夏投与前と投与4週後、8週後のBehave-AD、および、N-ADLを比較しました。
Behave-ADとは、Behavioral Pathology in Alzheimer’s Disease Rating Scaleの略で、BPSDの評価に使用されます。
N-ADLとは、N式老年者用日常生活動作能力評価尺度の略で、日常動作の評価に使用されます。
Behave-ADスコアの変化
抑肝散加陳皮半夏投与前:20.8±11.4
抑肝散加陳皮半夏投与4週後:15.4±10.4
抑肝散加陳皮半夏投与8週後:13.1±9.1
→投与8週後でBehave-ADの有意な低下が認められました。
N-ADLスコアの変化
抑肝散加陳皮半夏投与前、投与4週後、投与8週後においてN-ADLは有意な変化なし
→ADLを下げることなく、周辺症状を改善させました。
[勝元 榮一:医学と薬学 73(7),2016より引用]
抑肝散加陳皮半夏と攻撃性
クラシエの抑肝散加陳皮半夏によって、臨床試験が行われています。
先ほどと同一の平均年齢76.9歳の高齢者32人を対象に臨床試験を行ったデータを紹介します。
抑肝散加陳皮半夏投与前と投与4週後、8週後の妄想観念、幻覚、行動障害、攻撃性、日内リズム障害、感情障害、不安・恐怖、介護負担を比較しました。
妄想観念、行動障害、攻撃性、日内リズム障害、感情障害、不安・恐怖に有意な改善が認められました。
とくに暴言や威嚇・暴力、不穏などの攻撃性について顕著な改善が認められました。
[勝元 榮一:医学と薬学 73(7),2016より引用]