多発性硬化症[MS]の再発予防として使用されるイムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]の作用機序、特徴、副作用について解説しています。
イムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]:多発性硬化症[MS]治療薬
イムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]は、多発性硬化症[MS]の再発予防、身体的障害の進行抑制に使用される薬です。
多発性硬化症[MS]とは?
多発性硬化症は手や足、顔など身体のあらゆる部位を自由に動かせなくなったり、しびれや消化器系の症状などが生じる疾患です。
多発性硬化症は、英名でMultiple(多発する)Sclerosis(硬化)と呼ばれるため頭文字を取ってMSと呼ばれます。
多発性硬化症は、神経細胞に異常が起こることで生じる疾患です。
20~30代の女性に多い疾患です。
多発性硬化症の説明に入る前に、身体を支配している筋肉について確認してみましょう。
外部から刺激や脳からの指令によって、筋肉は緊張します。
刺激や指令の伝達は神経細胞を介して伝達し、脊髄において単一経路で情報伝達をする単シナプス反射や複数の経路で情報伝達をする多シナプス反射が行われます。
そこで、運動神経[α-運動ニューロンやγ-運動ニューロン]に興奮が伝わります。
α-運動ニューロンは直接骨格筋を収縮します。
γ-運動ニューロンは筋紡錘の感受性を高め、Ⅰa繊維からα-運動ニューロンに興奮を伝えることで間接的に骨格筋を収縮します。
神経線維の中心は、軸索と呼ばれる細長い突起部分であり、情報伝達を行います。
むき出しの軸索部分をランビエの絞輪、情報伝達の方法を跳躍伝導と言います。
このミエリンが何らかの影響で機能しなくなり、脱落[脱髄という]した疾患が多発性硬化症です。
ミエリンの脱髄の原因はわかっていませんが、自身のリンパ球の攻撃による自己免疫疾患であると考えられています。
イムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]の作用機序、特徴
多発性硬化症には、3つのタイプがあり、急性増悪と寛解を繰り返す再発寛解型が最も多いとされています。
再発寛解型の場合の薬物治療は、急性増悪を回復させるための治療と再発を抑制するための予防の2種類が必要に応じて行われます。
多発性硬化症では、ミエリンの脱髄が起こっていますが、なぜミエリンが脱髄するかはわかっていません。
ミエリンの脱髄の機序として1つ、以下のような仮説が立てられています。
- ミエリン類似物質を抗原とし、T細胞が活性化
- 活性化したT細胞が中枢へ移動
- 中枢内で再活性化したT細胞が炎症性サイトカインを分泌する。
これらのサイトカインはマクロファージ等を局所に動員し、結果としてミエリン産生細胞を破壊し脱髄
[ベタフェロンIFより改変]
多発性硬化症の治療薬として使用されるイムセラ、ジレニアは、活性化したT細胞の移動を抑制する作用を持っています。
多発性硬化症において問題となるT細胞は、抗原提示細胞より活性化し、
「リンパ節⇒血液⇒血液脳関門⇒脳内」へと移動していきます。
イムセラ、ジレニアの作用機序は、S1P1受容体が関与しています。
リンパ球やT細胞がリンパ節から血管内へ移動する際、S1P1受容体の活性化が必要になります。
イムセラ、ジレニアはS1P1受容体のアンタゴニストとして作用し、S1P1受容体の働きを抑制し、リンパ球・T細胞の血管内への移動を抑制します。
やっくん
イムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]は、S1P1受容体に作用し、リンパ球・T細胞の血管内への移動を抑制することで、ミエリンの脱髄を抑制します。
イムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]の副作用
イムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]は、多発性硬化症[MS]の再発予防、身体的障害の進行抑制薬として、2011年に発売された薬です。
主な副作用としては、リンパ球減少[16.0%]、ALT(GPT)増加[7.7%]、頭痛[7.3%]、鼻咽頭炎[7.3%]などが報告されています。
また、重篤な眼疾患、心拍数の低下、重篤な感染症など致命的な経過をたどる副作用が報告されているため、十分な知識と治療経験を持つ医師のもとで適切な症例にのみ実施することと警告されています。
イムセラ、ジレニア[フィンゴリモド]の禁忌
- 重篤な感染症
- クラスⅠa(キニジン、アミサリン[プロカインアミド])抗不整脈薬
- クラスⅢ(アンカロン[アミオダロン]、ソタコール[ソタロール])抗不整脈薬
- 妊婦又は妊娠している可能性のある人