乾癬の治療薬、マーデュオックス[マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]の作用機序、特徴、副作用について解説しています。
マーデュオックス[マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]
マーデュオックス[マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]は、尋常性乾癬に使用される活性型ビタミンD3製剤とステロイドの配合剤です。
乾癬とは?
乾癬とは、皮膚の炎症に加え、表皮のターンオーバーの異常を伴う疾患です。
そのため、皮膚が赤くなり、大量の鱗屑[白いフケのようなもの]を生じます。
[写真は日本皮膚科学会より]
乾癬の原因は、はっきりとはわかっていません。
現時点では、遺伝的な要因に加え、食生活の乱れ・ストレス・糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病など様々な環境や疾患が影響していると考えられています。
乾癬の患部においては、炎症性サイトカインであるTNF-αが大量に産生されていることが確認されています。
乾癬の治療では、次の4つが基本となります。
- 外用薬
- 内服薬
- 紫外線療法
- 生物学的製剤
マーデュオックス[マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]の作用機序
尋常性乾癬を含む乾癬の治療では薬物療法が中心となります。
中でも外用薬を使った治療が基本です。
外用薬でも効果が不十分の場合に、内服薬や紫外線療法、生物学的製剤の使用を検討します。
外用薬は、乾癬の主な症状である“炎症・紅斑”と“鱗屑・肥厚”に対してそれぞれ使用されます。
炎症・紅斑に対してはステロイド外用薬が、鱗屑・肥厚に対してはビタミンD3製剤が使用されます。
マーデュオックスは、マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルを有効成分とする活性型ビタミンD3製剤とステロイドの配合薬です。
マキサカルシトールはオキサロールとして、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルはアンテベートとして単剤では使用されています。
オキサロール[マキサカルシトール]作用機序:尋常性乾癬治療薬
アンテベート[ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]効能、強さ、副作用
オキサロールの作用機序
活性型ビタミンD3製剤が乾癬に使用されるようになったのは、乾癬を伴う骨粗鬆症患者に内服の活性型ビタミンD3製剤が使用されたことがきっかけでした。
マーデュオックスの有効成分の1つであるオキサロール[マキサカルシトール]は、核内にあるビタミンD受容体に結合することで、標的遺伝子の転写を活性化します。
その結果、細胞の分化誘導作用・表皮角化細胞の増殖抑制、IL-6産生抑制などの免疫調節作用を示します。
表皮の新陳代謝を正常化させることによって、鱗屑や肥厚に対して効果を示すのです。
やっくん
オキサロール[マキサカルシトール]は、ビタミンD3受容体に結合し、分化誘導作用・角化細胞増殖抑制、IL-6産生抑制作用などを示し、表皮の新陳代謝の異常を整えます。
アンテベートの作用機序
マーデュオックスの有効成分の1つであるアンテベートは、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルを有効成分とするステロイド外用薬です。
ステロイド外用薬の中では、2番目に強いベリーストロングに分類されます。
そのため顔や陰部など皮膚の薄い部位には使用されません。
ステロイド外用薬強さ一覧表
強さ |
薬品名 |
---|---|
ストロンゲスト |
デルモベート、ダイアコート |
ベリーストロング |
リンデロンDP、マイザー、ネリゾナ、トプシム、フルメタ、アンテベート |
ストロング |
メサデルム、リンデロンV、プロパデルム、エクラー、ボアラ、フルコート、ドレニゾン |
ミディアム |
リドメックス、ケナコルトA、レダコート、ロコイド、キンダベート、アルメタ |
ウィーク |
プレドニゾロン |
アンテベートの有効成分であるベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルは、脂溶性で分子量が518.61と比較的小さいことから、細胞内へ取り込まれます。
細胞膜を通過し細胞質へ取り込まれると、グルココルチコイド受容体[GR]に結合し、核内へ侵入します。
アンテベートを含むステロイド外用薬は、この核内において2つの作用を示します。
1つ目は、GR結合部位[GRE]に結合することでリポコルチンと呼ばれるタンパク質の転写を誘導します。
リポコルチンの作用の1つがホスホリパーゼA2の阻害作用であるため、アラキドン酸カスケードにおけるプロスタグランジン[PG]とロイコトリエン[LT]といった炎症に関与する局所ホルモンの生合成を阻害するのです。
2つ目は、AP-1やNF-κBなどの炎症性転写因子に直接結合する作用です。
これら炎症性転写因子の作用を抑制することで、炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-6の産生を抑制します。
やっくん
アンテベート[ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]は、局所ホルモンの生合成阻害作用、炎症性サイトカインの生合成阻害作用により、抗炎症作用を示します。
マーデュオックス軟膏の特徴:安定性、塗布回数
マーデュオックス軟膏の特徴は次の2つです。
- 安定性が高い
- 1日1回の塗布で速やかな効果
従来は、尋常性乾癬の治療において、活性型ビタミンD3製剤とステロイド外用薬を混合して出すことが一般的でした。
しかし、活性型ビタミンD3製剤はアルカリ性で安定であり、ステロイド外用薬は酸性~中性で安定です。
両者を混合してしまうと、アルカリ性で安定な活性型ビタミンD3製剤が酸性側に傾いてしまい、2週間程度でも濃度の低下が確認されていました。
マーデュオックス軟膏は、基剤を工夫し両者が完全に混ざり合うことのない環境を作った独自の技術で製造後2年半安定性を保った製剤です。
従来は、オキサロール、アンテベートともに尋常性乾癬に用いる場合は、1日2回に分けて塗布しなければなりませんでした。
マーデュオックス軟膏は、1日1回でも十分な効果が得られることが報告されているため、患者さんの負担を大きく減らすことができます。
マーデュオックス[マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]の副作用
マーデュオックス[マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]は、尋常性乾癬の治療薬として、2016年に承認された薬です。
マーデュオックスの主な副作用は、血中コルチゾール減少[2.4%]、血中カルシウム増加、血中クレアチニン増加、白血球数減少、肝機能異常、毛包炎[各0.6%]などが挙げられます。
マーデュオックスを含む活性型ビタミンD3外用薬の副作用に高カルシウム血症があります。
活性型ビタミンD3内服薬は、アルファロールやエディロールなどカルシウムの吸収を高めるため、骨粗鬆症の治療薬として使用されます。
活性型ビタミンD3外用薬においても、カルシウムの血中濃度が高くなることが報告されているため注意が必要です。
高カルシウム血症の初期症状は、便秘や吐き気、食欲不振などであるため見落としがちです。
そのため、マーデュオックスの使用直後は血中濃度の検査、その後も定期的にカルシウム濃度の検査を行います。
マーデュオックス[マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル]の禁忌
- 細菌・真菌・スピロヘータ・ウイルス皮膚感染症及び動物性皮膚疾患(疥癬、けじらみ等)
[感染症及び動物性皮膚疾患症状を悪化させることがあります。] - 潰瘍(ベーチェット病は除く)、第2度深在性以上の熱傷・凍傷
[皮膚の再生が抑制され、治癒が著しく遅れるおそれがあります。また、感染のおそれがあります。]