筋収縮薬として使用されるメスチノン[ピリドスチグミン]の作用機序、特徴、副作用について解説しています。
メスチノン[ピリドスチグミン]:重症筋無力症治療薬
メスチノン[ピリドスチグミン]は、重症筋無力症の治療に使用される筋収縮薬です。
重症筋無力症は女性がかかることの多い自己免疫性疾患です。
自己免疫疾患とは、自身の免疫系に何らかの異常が生じ、誤って自分自身を攻撃してしまう疾患です。
重症筋無力症の場合は、アセチルコリン受容体に対する自己抗体が産生されます。
アセチルコリン受容体に自己抗体が結合することで、神経伝達が伝わりにくくなり、力を加えても筋肉が動きにくい、力が入らないなどの症状を示すのです。
そのため、重症筋無力症では以下のような症状が現れます。
- 瞼が落ちてくる
- 目が疲れる
- 食べ物がのどを通りにくい
- 食べ物を噛めない
- 上手く表情を作れない
- 字が書けない
- 箸を持てない
- よく物を落とす
- 息苦しくなる
メスチノン[ピリドスチグミン]の作用機序、特徴
メスチノンは、骨格筋の神経伝達を促進する重症筋無力症の治療薬です。
メスチノンは、末梢性のコリンエステラーゼ阻害薬であり、アセチルコリンの作用を増強します。
メスチノンの作用機序に入る前に、末梢における筋肉の収縮機構について確認してみましょう。
骨格筋収縮の仕組み、メカニズム
骨格筋の収縮には次の3つのステップが必要です。
- ニコチン性アセチルコリン受容体の活性化による脱分極
- 筋小胞体からカルシウムイオンの遊離
- アクチン・ミオシンのATP消費による結合
神経伝達物質であるアセチルコリンが、ニコチン性アセチルコリン受容体に作用します。
ニコチン性アセチルコリン受容体はナトリウムチャネルを形成しているため、ナトリウムイオンの細胞内流入が起こり脱分極を起こします。
一方、神経終末のアセチルコリンはコリンエステラーゼによって分解され、コリンとなって再利用されます。
脱分極による活動電位がT管に伝わり、T管にあるカルシウムチャネルが開口します。
カルシウムチャネルと連動し、筋小胞体内のリアノジン受容体が開口し、カルシウムイオンが遊離するのです。
筋小胞体から遊離したカルシウムイオンは骨格筋中のトロポニンと結合します。
トロポニンは、アクチン中のミオシン結合部位の外側をトロポミオシンが覆うようにすることで筋肉の収縮を抑制しています。
カルシウムイオンがトロポニンと結合すると、トロポミオシンが変形しミオシン結合部位がむき出しの状態になります。
この状態になって初めて、ミオシンとアクチンが結合しATPを消費することで筋肉が収縮します。
メスチノンは、1~3のうち1の部分に大きく関わっています。
メスチノンは、アセチルコリンの分解に関わる酵素=コリンエステラーゼに作用します。
コリンエステラーゼのエステル水解部をカルバモイル化することで、神経終末におけるアセチルコリン量を増やし作用を増強するのです。
やっくん
メスチノン[ピリドスチグミン]は、神経終末におけるコリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリンの作用を増強することで、重症筋無力症の症状を緩和します。
メスチノン[ピリドスチグミン]の副作用
メスチノン[ピリドスチグミン]は、重症筋無力症の治療薬として、1970年に発売された薬です。
主な副作用としては、下痢[14.8%]、腹痛[14.1%]、発汗[8.2%]、線維性攣縮[5.8%]、流涎[5.1%]などが報告されています。
メスチノン[ピリドスチグミン]の禁忌
- 消化管又は尿路の器質的閉塞
[蠕動運動を亢進させ、また、排尿筋を収縮させるおそれがあります。] - 迷走神経緊張症[迷走神経を興奮させるおそれがあります。]
- 脱分極性筋弛緩剤(スキサメトニウム塩化物水和物)[全身麻酔時に持続性呼吸麻痺を起こすことがあります。]