糖尿病治療薬、イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]の作用機序、特徴、副作用について解説しています。
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]:糖尿病治療薬
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]は2型糖尿病に使用される治療薬です。
糖尿病とは、字のごとく血液中の糖分濃度や尿中の糖分濃度が高くなる疾患です。
なぜ尿中にブドウ糖が含まれるのか?
通常、グルコースとも呼ばれるブドウ糖は、私たちが活動するためのエネルギーとして使用されます。
エネルギーとして使用する流れが、いわゆる解糖系とクエン酸回路です。
このように、私たちは身体を動かすために、食事からエネルギー源となるブドウ糖[グルコース]を摂取するのです。
そのため、私たちの身体の中では、せっかくのエネルギー源を簡単には体外に出さないようにといった仕組みができています。
そのひとつが、腎臓であり、尿中に溶けているブドウ糖をもう一度使用するために回収する働きがあるのです。
よって、尿の中には通常ブドウ糖が含まれることはありません。
糖尿病患者では、腎臓が処理できない量のブドウ糖が血液中や尿中に含まれるため、糖尿をもたらすのです。
糖尿病になると何がダメなのか?
血液中や尿中にブドウ糖[グルコース]が多くなればどうなるのでしょうか?
血液中のブドウ糖量が多くなると、血液が流れにくくなり血管が詰まったり、傷ついてしまいます。
特に太い血管よりも、細い血管[毛細血管]に対する影響が顕著です。
糖尿病では、この毛細血管に非常に影響が出やすいことから、毛細血管が多く存在する場所を3大合併症と定めています。
糖尿病性3大合併症は、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害と定められています。
特に糖尿病性腎症にかかると、最終的には血液透析[年間医療費約500万円]を行うケースが少なくありません。
また、がんのリスクや認知症のリスクが非常に高くなることも知られています。
このような背景から、国はメタボ検診などの特定保健指導によって糖尿病予備軍の方に対して、食事や運動の指導を行っているのです。
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]の作用機序
糖尿病の原因は、1型糖尿病と2型糖尿病で異なります。
生活習慣が原因の糖尿病は2型糖尿病です。
2型糖尿病の治療の場合、インスリンが分泌されないのか[インスリン分泌不全型]、インスリンがあっても上手く働かないのか[インスリン抵抗性型]を考慮しなければなりません。
インスリン分泌の仕組み:インクレチンの働き
私たちの血液中のブドウ糖の濃度[血糖値]は常に一定になるようにと身体は働きます。
インスリンというホルモンが分泌されて、血糖値が下がります。
グルカゴンというホルモンが分泌されて、血糖値が上がります。
このような働きで、私たちの血糖値は一定に保たれているのです。
血糖値を一定にするため、インスリンやグルカゴンの働きを調整しているホルモンがインクレチンです。
インクレチンは、血糖値が高い場合に小腸から分泌され、膵臓に働きかけます。
インクレチンは、膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴンの抑制と、β細胞から分泌されるインスリンの促進に関わっています。
インスリン抵抗性とは?
インスリンの作用によって、通常、骨格筋で糖が取り込まれます。
健常者では、糖の約7割を骨格筋が取り込み使用されます。
糖尿病患者では糖が半分ほどしか骨格筋に取り込まれないため、高血糖になります。
イニシンクは、アログリプチンとメトホルミンの配合薬です。
アログリプチンは国内でネシーナとして、メトホルミンはメトグルコとして使用されています。
ネシーナは、インクレチンの分解酵素であるDPP-4を阻害する薬です。
DPP-4を阻害することで、インクレチン濃度を高め、血糖値が高くなった際にインスリンを分泌する血糖依存性のインスリン分泌促進薬として使用されています。
やっくん
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]は、インクレチン分解酵素であるDPP-4を阻害することで、インスリンを血糖依存性に分泌します。
メトグルコは、2型糖尿病の治療薬として使用されます。
メトグルコは、インスリンの抵抗性を改善する薬に分類されます。
メトグルコは、AMP活性化キナーゼに働きかけ、体内のエネルギーであるATPを蓄えるように働きます。
ATPは、糖や脂肪の代謝によって生成されるため、その逆である糖や脂肪を合成する際、ATPは不可欠です。
つまり、体内でブドウ糖を生成するにはATPが必要なため、メトグルコは、ATPを消費しないように働きかけることで血糖降下作用を示すのです。
やっくん
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]は、AMPKを活性化し、ATPの消費を抑制することで、インスリンの抵抗性を改善します。
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]の副作用
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]は、糖尿病の治療薬として、2016年に承認された新しい薬です。
主な副作用としては、便秘、胃腸障害、倦怠感、薬物性肝障害[各0.7%]などが挙げられます。
重篤な副作用として乳酸アシドーシスが報告されています。
腎機能や肝機能低下時に起こりやすいため、高齢者に投与する際は慎重に投与します。
乳酸アシドーシスの初期症状である胃腸症状、倦怠感、筋肉痛、過呼吸の発現に注意しましょう。
イニシンク低血糖時の対処方法
イニシンクの副作用では、低血糖を起こすことがあります。
強い空腹感やあくび、発汗などの初期症状から、重篤な場合は意識障害、昏睡、死に至ることもあります。
このような症状が現れた場合は、すぐにブドウ糖5~10g程度を服用します。
15分後、症状がおさまらない場合は、さらにブドウ糖を追加します。
イニシンク[アログリプチン/メトホルミン]の禁忌
- 次に示す状態の患者[メトホルミンにより乳酸アシドーシスを起こしやすい]
1)乳酸アシドーシスの既往
2)中等度以上の腎機能障害
[腎臓におけるメトホルミン及びアログリプチンの排泄が減少します。]
3) 透析患者(腹膜透析を含む)[高い血中メトホルミン濃度が持続するおそれがあります。]
4) 重度の肝機能障害[肝臓における乳酸の代謝能が低下します。]
5) ショック、心不全、心筋梗塞、肺塞栓など心血管系、肺機能に高度の障害のある患者及びその他の低酸素血症を伴いやすい状態[乳酸産生が増加します。]
6) 過度のアルコール摂取者[肝臓における乳酸の代謝能が低下します。]
7) 脱水症、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐等の胃腸障害のある患者 - 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1 型糖尿病
[輸液、インスリンによる速やかな高血糖の是正が必須となるので本剤の投与は適さない。] - 重症感染症、手術前後、重篤な外傷
[インスリン注射による血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。また、メトホルミンにより乳酸アシドーシスを起こしやすい。] - 栄養不良状態、飢餓状態、衰弱状態、脳下垂体機能不全又は副腎機能不全
[低血糖を起こすおそれがあります。] - 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人