脳の覚醒を抑制する睡眠薬として使用される薬がベルソムラ[スボレキサント]です。
今回は、ベルソムラ[スボレキサント]の作用機序、特徴、副作用について解説しています。
ベルソムラ[スボレキサント]:不眠症治療薬
ベルソムラ[スボレキサント]は、不眠症の治療薬として使用されています。
私たちが睡眠をとる際のメカニズムは複雑で、はっきりとはわかっていません。
しかし、その複雑なうちの一つが最近解明されました。
オレキシンと呼ばれる神経伝達物質が、脳の興奮に関与しているのです。
このオレキシンが活性化すると、脳が興奮/覚醒状態に陥るのです。
オレキシンは、光などの外的刺激、および、特に食欲などの内的刺激によって分泌量が増加します。
ベルソムラ[スボレキサント]の作用機序、特徴
不眠症の種類は主に次の4つのパターンに分けられます。
1.入眠障害:布団に入ってから、睡眠するまでの時間が長く、寝つきが悪い
2.中途覚醒:寝つきは良いが、睡眠途中で目が覚めてしまい、その後寝れない
3.早期覚醒:朝早くに目覚めてしまい、その後寝れない
4.熟眠障害:夢を見ることが多く、熟睡できない
自分がどの不眠症のタイプなのか、それぞれの症状に合わせて不眠症の薬を使い分けます。
不眠症に用いられる薬のほとんどは、ベンゾジアゼピン基といった骨格を持っており、ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬と分類されています。
しかし、ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬は、長期間服用することで薬剤耐性や依存が生じやすく、漫然とした使用が日本では問題となっています。
諸外国では、日本よりも厳しく制限されていることが多く、例えばフランスでは不眠治療では4週間、不安治療では12週までしか継続できないといった制限があります。
ベルソムラはベンゾジアゼピン作動性睡眠薬と全く異なる機序で、催眠作用を示す新しい薬です。
ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬はGABAの抑制系に働きますが、ベルソムラは前述のオレキシンの覚醒系に対して作用を示します。
オレキシンが活性化する際に結合するオレキシン受容体[OX1R、OX2R]にベルソムラが拮抗することで、脳の興奮・覚醒を抑制し、脳を睡眠状態へと移行させるのです。
やっくん
ベルソムラ[スボレキサント]は、オレキシン受容体[OX1R、OX2R]を阻害し、脳の働きを抑制し、不眠症を改善します。
ベルソムラ[スボレキサント]の効果について使用成績調査によると、3,248例中555例(17.1%)が睡眠状態改善のため、ベルソムラの服用を終了したと報告されています。
ベルソムラの特徴:頓服服用について
ベルソムラは、Tmaxが1.5時間と服用後間もなく効果を示します。
飲み続けることでより効果的に入眠障害や中途覚醒を改善し、服用後1週間、1ヶ月、3ヶ月と機関が長くなるにつれて、合計の睡眠時間が増えたといった報告もされています。
ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬と異なり、半減期は10時間と長く、興奮・覚醒物質であるオレキシンは日内変動があることからも、頓服服用は推奨されていません。[MRさんより頓用使用や漸減使用も問題ないと2019年に確認が取れました]
入眠障害や中途覚醒いずれにも使用されます。
また、食事のあとに服用すると効果が弱くなってしまうため、および、1.5時間で最高血中濃度に達するため、寝る直前に服用します。[実際には眠前1時間前くらいに飲むケースもあるとMRさんは言っていました]
ベルソムラの特徴:一包化、粉砕について
ベルソムラは、新しいタイプの睡眠薬なので、高齢者で使われるケースもしばしばあります。
しかし、一包化や粉砕といった服用は推奨されていません。
その理由を製造元のMSDさんに問い合わせてみました。
ベルソムラが一包化できない理由は、開封翌日より錠剤のコーティングがひび割れするためです。
日数が経過するに従い、溶出速度が遅くなることが確認されています。
このデータから、溶出速度の遅延→効果の遅延が生じるため、一包化や粉砕は適していないということでした。
ベルソムラ[スボレキサント]の副作用
ベルソムラ[スボレキサント]は、不眠症の治療薬として、2014年にオレキシン受容体拮抗薬として世界で初めて承認を受けた薬です。
代表的な副作用としては、傾眠[4.7%]、頭痛[3.9%]、疲労[2.4%]などが挙げられます。
また、ベルソムラには、ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬に見られる、退薬・離脱症状[薬の服用を急に止めると起こる精神的な副作用=痙攣発作、譫妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想等]は起こりにくいと言われています。
そのため、現時点では、特に薬をやめる際、服用間隔をあけたり、漸減する等の措置は必要ありません。
ベルソムラ[スボレキサント]の禁忌
- イトリゾール[イトラコナゾール]
- クラリス・クラリシッド[クラリスロマイシン]
- ノービア[リトナビル]
- インビラーゼ[サキナビル]
- ビラセプト[ネルフィナビル]
- クリキシバン[インジナビル]
- テラビック[テラプレビル]
- ブイフェンド[ボリコナゾール]
[いずれもCYP3A4の阻害作用により、ベルソムラの効果が増強するおそれがあります。]
風邪をひいたときなど、クラリス、クラリシッド[クラリスロマイシン]とベルソムラ[スボレキサント]が一緒に処方されるケースがありますが、併用禁忌です。
特に何時間と時間を空けたからからといって併用可能になるわけではありませんので、注意が必要です。