調剤薬局で輸液を扱う機会は限られています。しかり、今後在宅の現場での必要性は高くなるでしょう。
輸液の基礎的な話から、種類や違い、使い分けについてまとめてみました。
輸液とは?
輸液の定義は、“水、電解質及び各種栄養成分を含む50mL以上の注射液”です。
輸液を点滴する目的は、主に体液の補給と調整、栄養補給です。
特に高齢者では、水分や栄養を口から摂ることができにくくなることが多く、体内の水分バランスが崩れ、脱水を起こしやすくなります。
逆に、口から食べ物や飲み物を摂取できるときは、栄養剤や飲む点滴とも呼ばれる経口補水液[ORS]を使用します。
脱水により体内の水分バランスが崩れると代表的な電解質のバランスも崩れ、身体が異常をきたします。
代表的な電解質の働きは以下にまとめています。
カリウム[K]の働き
細胞内に存在する陽イオンの代表です。
細胞内液に98%、細胞外液に2%の割合で存在します。
細胞の代謝や、筋肉の興奮・収縮に関与します。
また、ナトリウム量とのバランスで細胞内浸透圧を維持しています。
腎臓から排泄されるため、腎機能低下患者では高カリウム血症に注意しなければなりません。
カリウム値が上がると手足のしびれや倦怠感の後に、徐脈や不整脈、重篤になると心停止を起こします。
ナトリウム[Na]の働き
細胞外に存在する陽イオンの代表です。
浸透圧によって血液量や体液量を調節します。
血中ナトリウムが多いと血液内の水分量が多くなるため、浮腫をおこすためナトリウムを外に出そうとします。
水分量が多い場合、心房性ナトリウム利尿ペプチド[ANP]、脳性ナトリウム利尿ペプチド[BNP]が働き、水分量が少ない場合、アルドステロン、抗利尿ホルモンなどのホルモンが働くことで調整されています。
【血液検査】ナトリウム[Na]の基準値:高い、低い、薬の副作用
カルシウム[Ca]の働き
体液中のカルシウムは、副甲状腺ホルモン、ビタミンD、カルシトニンによって調節されています。
血液凝固や筋肉の収縮、細胞膜の興奮などに関与しています。
【血液検査】カルシウム[Ca]の基準値:高い、低い、薬の副作用
マグネシウム[Mg]の働き
Mgの半分は骨に存在しており、骨の形成やエネルー代謝に関与します。
高齢者では、腎臓から排泄される量が少なくなるため、高マグネシウム血症に注意しなければなりません。
【血液検査】マグネシウム[Mg]の基準値:高い、低い、薬の副作用
クロール[Cl]の働き
ナトリウムを中和する陰イオンとして細胞外液中に存在します。
食後には、胃酸の一部として分泌されます。
重炭酸イオン[HCO3–]の働き
酸・アルカリを調節します。
基本的にはアルカリ成分のため、体内が酸性に傾く[アシドーシス]と、弱塩基として働き過剰なH+を取り除きます。
体内がアルカリ性に傾く[アルカローシス]と、弱酸として働きH+を供給します。
リン酸一水素イオン[HPO4–]の働き
重炭酸イオン同様、酸・アルカリを調節します。
リン酸二水素イオンは弱酸として働き、リン酸一水素イオンは弱塩基として働きます。
輸液の種類
輸液は、電解質輸液剤・血漿増量剤・栄養輸液剤の大きく3つに分かれます。
- 電解質輸液剤は、水分補給と電解質バランスを整えることが目的です。
- 血漿増量剤は、出血や火傷など重篤な血液量の減少時に使用します。
- 栄養輸液剤は、カロリー減となるブドウ糖、アミノ酸、脂肪に加えビタミン剤、微量元素が該当します。
電解質輸液の種類、使い分け
輸液は、乳酸リンゲル液などの等張輸液とブドウ糖が添加された低張電解質輸液があります。
乳酸リンゲル液は、体液と浸透圧が同じなので、細胞外液の補給に使用されます。
循環血液量が増えるため、血圧が上がり心負荷が掛かってしまうので注意が必要です。
種類 | 特徴 |
---|---|
生理食塩水 | NaとClが増えるため、Cl–増加によりHCO3–が減少する →希釈性アシドーシスを起こす |
リンゲル液 | 血液に近づけるため、生理食塩水にKとCaを追加 |
アルカリ化リンゲル液 [乳酸リンゲル,酢酸リンゲルなど] |
乳酸や酢酸を追加し、HCO3–を生成 →アシドーシスの是正 |
臨床では、身体全体への水分と栄養の補給が目的のため、低張電解質輸液が一般的に使用されます。
低張電解質輸液=いわゆる維持液は、生理食塩水と5%ブドウ糖液をベースとして1-4号液に分かれています。
1号液を開始液、2号液を脱水補給液、3号液を維持液、4号液を術後回復液と言います。
種類 | 適応、使い分け | 特徴 |
---|---|---|
1号液:開始液 | 脱水、病態不明時の水分・電解質補給 | 病態不明なのでカリウムが入ってない |
2号液:脱水補給液 | 脱水、手術前後の水分・電解質補給 | 1号液にカリウムを追加 |
3号液:維持液 | 水分・電解質の補給、維持 エネルギー補給 |
2000mL/日でナトリウム、クロール、カリウム、水分の補給ができる |
4号液:術後回復液 | 術後早期、腎機能低下の乳幼児・高齢者に対する水分・電解質の補給 | カリウムを取り除き、電解質濃度低く、細胞内への水分補給効果が大きい |
低張液とは?
生理食塩水も5%ブドウ糖液も体液と等張にも関わらず、合わせたものは低張液と言われます。
これは、5%ブドウ糖液は、瞬時に代謝され水を生成するためです。
C6H12O6+6O2→6H2O+6CO2+ATP
例えば、5%ブドウ糖液500mLは、15mLの水と呼吸で排泄される二酸化炭素、ATPエネルギーに代謝されます。
結果15mLの水分が増えるので、投与後まもなく低張液となるのです。
よって、低張電解質輸液において、ブドウ糖量が少ない1号液は電解質補給効果が高く、ブドウ糖量の多い4号液は水分補給効果が高くなります。
代表的な低張電解質輸液一覧表
製品名 | Na | K | Ca | Mg | Cl | P | 乳酸 | 糖 | pH |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ソリタ-T1号輸液 [ソルデム1輸液] |
90 | – | – | – | 70 | – | 20 | 2.6 | 3.5-6.5 |
KN1号輸液 | 77 | – | – | – | 77 | – | – | 2.5 | 4.0-7.5 |
ソリタ-T2号輸液 | 84 | 20 | – | – | 66 | 10 | 20 | 3.2 | 3.5-6.5 |
ソルデム2輸液 | 77.5 | 30 | – | – | 59 | – | 48.5 | 1.45 | 4.5-7.0 |
KN2号輸液 | 60 | 25 | – | 2 | 49 | 6.5 | 25 | 2.35 | 4.5-7.0 |
ソリタ-T3号輸液 [ソルデム3A輸液] |
35 | 20 | – | – | 35 | – | 20 | 4.3 | 3.5-6.5 |
ソリタ-T3号G輸液 [ソルデム3AG輸液] |
35 | 20 | – | – | 35 | – | 20 | 7.5 | 3.5-6.5 |
ソルデム3輸液 KN3号輸液 |
50 | 20 | – | – | 50 | – | 20 | 2.7 | 4.0-7.5 |
EL-3号輸液 | 40 | 35 | – | – | 40 | 8 | 20 | 5.0 | 4.0-6.0 |
ソルデム3PG輸液 10%EL-3号輸液 |
40 | 35 | – | – | 40 | 8 | 20 | 10.0 | 4.0-6.0 |
アクチット輸液 | 45 | 17 | – | 5 | 37 | 10 | A20 | M5.0 | 4.3-6.3 |
フィジオ35輸液 | 35 | 20 | 5 | 3 | 28 | 10 | A20 | 10.0 | 4.7-5.3 |
ヴィーン3G輸液 | 45 | 17 | – | 5 | 37 | 10 | A20 | 5.0 | 4.3-6.3 |
ソリタ-T4号輸液 | 30 | – | – | – | 20 | – | 10 | 4.3 | 3.5-6.5 |
ソルデム6輸液 KN4号輸液 |
30 | – | – | – | 20 | – | 10 | 4.0 | 4.0-7.5 |
[A:酢酸塩、M:マルトース]
低張電解質輸液の一例を比較表にしましたが、実際そこまで大きな違いはありません。
欧米ではそもそも1-4号液の概念もなく、テクニシャンが作成しています。
ブドウ糖[グルコース]の代わりに、キシリトールやマルトースが添加されることもありますが、速やかに代謝されるため、血糖値への影響はほとんどありません。