平成30年7月豪雨、私がこれまで見たこともない規模の水害でした。
暑くジメジメしたこの季節、薬剤師としては水害後の感染症が気になるところです。
各自治体からも水害時の消毒方法が公開されていますが、薬の専門家としてより詳しく水害時に使える消毒剤と具体的な使い方、消毒方法についてまとめてみました。
消毒薬の種類
消毒薬は市販のものから医療用のものまで実はかなり幅広い範囲で使い分けされています。
よく使われている消毒薬を一覧にしています。
消毒薬[販売名] | 消毒薬[一般名] |
---|---|
アセサイド | 過酢酸 |
ディスオーパ | フタラール |
サイデックスプラス、ステリハイド | グルタラール |
ホルマリン | ホルマリン |
テキサント、ミルトン、ピューラックス | 次亜塩素酸ナトリウム |
消毒用エタノール液IP | 消毒用エタノール |
イソジン | ポビドンヨード |
オスバン、ヂアミトール | ベンザルコニウム塩化物 |
ハイアミン | ベンゼトニウム塩化物 |
テゴー51 | アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩 |
ヒビテン、マスキン | クロルヘキシジングルコン酸塩 |
リバノール | アクリノール |
オキシフル | オキシドール |
これら10種類以上の消毒薬をどのように使い分けしているかというと、次の2つです。
- 何を殺したいか?[ウイルス?細菌?]
- 何に使用するか?[ヒト?物?環境?]
消毒薬の使い分け:①何を殺したいか?
消毒薬の対象は微生物ですが、微生物といってもウイルスや細菌、真菌などさまざまです。
これら微生物は消毒薬が効きやすいものもあれば、ほとんど消毒薬が効果がないものも含まれます。
一般的に、消毒薬に対する抵抗性は、
芽胞菌>ウイルス>結核菌>真菌>一般細菌
の順に強いとされています。
そのため、どの微生物に効果があるかで消毒薬は大きく3つに分類分けされているのです。
芽胞菌を含む全ての微生物に効果がある消毒薬が高水準消毒薬、ウイルスに効果がある消毒薬が中水準消毒薬、一般細菌にしか効果がない消毒薬が低水準消毒薬です。
先ほどの表を消毒薬の強さで分類分けすると次のようになります。
分類 |
消毒薬[販売名] |
消毒薬[一般名] |
---|---|---|
高水準 |
アセサイド | 過酢酸 |
ディスオーパ | フタラール | |
サイデックスプラス、ステリハイド | グルタラール | |
中水準 |
ホルマリン | ホルマリン |
テキサント、ミルトン、ピューラックス | 次亜塩素酸ナトリウム | |
消毒用エタノール液IP | 消毒用エタノール | |
イソジン | ポビドンヨード | |
低水準 |
オスバン、ヂアミトール | ベンザルコニウム塩化物 |
ハイアミン | ベンゼトニウム塩化物 | |
テゴー51 | アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩 | |
ヒビテン、マスキン | クロルヘキシジングルコン酸塩 | |
リバノール | アクリノール | |
オキシフル | オキシドール |
消毒薬の使い分け:②何に使用するか?
消毒薬にはそれぞれ特性があり、何に使用するかでも使い分けを行います。
一般的に、効果が高い消毒薬ほど毒性が高いため使用できる範囲が狭く、効果が低い消毒薬は安全性が高いため様々な用途で使用されます。
高水準消毒薬=毒性が高い=用途が限られる
低水準消毒薬=毒性が低い=多用途で使われる
そのため、何に使うかを考えた場合、各消毒薬の特性を理解して、使い分けを行います。
消毒薬[販売名/一般名] | 手指 | 手術部位 | 創傷部位 | 排泄物 | 金属器具 | 非金属器具 | 環境 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アセサイド/過酢酸 | × | × | × | × | ○ | ○ | × |
ディスオーパ/フタラール | |||||||
サイデックスプラス/グルタラール | |||||||
ホルマリン | × | × | × | × | × | × | × |
テキサント/次亜塩素酸ナトリウム | × | × | × | ○ | × | ○ | ○ |
消毒用エタノール液IP /消毒用エタノール |
○ | ○ | × | × | ○ | ○ | ○ |
イソジン/ポビドンヨード | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × |
オスバン/ベンザルコニウム塩化物 | ○ | ○ | ○ | × | ○ | ○ | ○ |
ハイアミン/ベンゼトニウム塩化物 | |||||||
テゴー51 /アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩 |
× | × | × | × | ○ | ○ | ○ |
ヒビテン、マスキン /クロルヘキシジングルコン酸塩 |
○ | ○ | ○ [粘膜×] |
× | ○ | ○ | ○ |
リバノール/アクリノール | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × |
オキシフル/オキシドール | × | × | ○ | × | × | × | × |
水害時に使える消毒薬
水害時にどの消毒薬を使うべきか?
消毒薬の使い分け①の“何を殺したいか”と②の“何に使用するか”について考えてみましょう。
食中毒・胃腸炎予防
水害時で問題となる感染症で最も気を付けないといけないのは、大腸菌や赤痢菌などの腸管における感染症です。
大腸菌や赤痢菌は①の分類において一般細菌に分類されるため、すべての消毒薬で効果があります。
食中毒や胃腸炎の原因は、食品の汚染・調理器具の汚染・食器の汚染・手指の汚染が挙げられます。
食中毒の3原則は“つけない”・“ふやさない”・“やっつける”
3つ目のやっつけるの方法として、それぞれの消毒が必要となります。
水害後のカビ予防、カビ対策
水害後のカビの発生を防止するため、あるいはカビが発生した後の対策としても消毒薬が必要です。
カビは①の分類において真菌に分類されるため、低水準消毒薬では十分な効果が期待できない場合があります。
低水準消毒薬でもある程度の効果はありますが、真菌の種類によっては長時間作用させなければならないため、中水準消毒薬を使うのが望ましいと言えます。
カビは、直射日光が当たらずジメジメしている環境に発生するため、環境の消毒が必要となります。
水害時の消毒薬の使い方
全ての消毒薬において、汚れがあると十分な消毒効果が得られません。
十分な洗浄を行った後に、それぞれの消毒薬で感染症を予防しましょう!
調理器具や食器の消毒
汚れがあれば洗剤でまず汚れを落とします。
0.02%次亜塩素酸ナトリウム液に30分-1時間浸し、その後自然乾燥させます。
また、85℃の熱湯に1分以上浸す熱湯消毒も有効です。
市販次亜塩素酸ナトリウムの例
手指の消毒
手に汚れがあれば石鹸で汚れを落とし、アルコール消毒薬を手に擦り込みます。
手に汚れがなければアルコール消毒薬を手に擦り込むだけで構いません。
0.1%ベンザルコニウム塩化物液に手を浸す方法もありますが、薄める手間や大人数が使う場合は汚れが混入して効果が落ちることを考えるとあまり望ましいとは言えません。
市販アルコール消毒薬の例
市販ベンザルコニウム塩化物の例
衣服、床や壁・家具など物品・環境の消毒
カビの予防が目的でなければ、0.1%ベンザルコニウム塩化物液を使って付け置きやふき取りを行います。
カビの予防も兼ねたいのであれば、0.02-0.1%次亜塩素酸ナトリウム液や消毒用エタノール液を使って付け置きやふき取りを行います。
[次亜塩素酸ナトリウムは漂白作用や金属をサビさせる作用があり、消毒用エタノールは革製品や一部のフローリングには適していないなど適不適があるため、気になる場合は対象家具の製造メーカーに問い合わせてみましょう]
材質によって使える消毒薬がない場合は熱による消毒もオススメです。
ほとんどの細菌・ウイルスは85℃1分で死滅するため、熱湯を数回かけたり、スチームアイロンのスチームをあてるといった消毒方法もあります。
クレゾール石ケン液は消毒に向いてない
昔の名残でクレゾール石ケン液を使う方法も多く紹介されていますが、この方法はオススメできません。
クレゾール石ケン液は中水準消毒薬に該当しますが、カビに対してあまり効果がありません。
また、非常に臭いが強く、一度付いた臭いは数週間から数ヶ月取れないこともあります。
中和剤もないため、近所の方とトラブルになることが問題となっていますので、可能な限り使用しないようにしてください。
市販ベンザルコニウム塩化物の例
市販次亜塩素酸ナトリウムの例
市販消毒用エタノールの例
浸水・水害時に使う消毒剤・使用方法まとめ
対象 | 消毒剤 | 使用方法 |
調理器具・食器 | 0.02%ハイター・ブリーチ | 30分-1時間浸す |
熱湯 | 85℃1分以上浸す | |
手指 | 手ピカジェル | 手に擦り込む |
物品・環境 | 0.1%オスバン | 1時間付け置き、ふき取り |
0.02-0.1%ハイター | 1時間付け置き、ふき取り | |
消毒用エタノールIP | ふき取り | |
熱湯・スチームアイロン | 85℃1分以上あてる |