漢方医学では、証を判定するために、寒熱や虚実、陰陽、気血水など個が持つ指標を用います。
このページでは、気血水について解説しています。
漢方の考え方:西洋医学との違い
漢方医学による診断と治療では、個々の患者の“証”を判定することが目的となります。
証とは、その人の状態[体質・体力・抵抗力・症状の現れ方などの個人差]をあらわすものです。
証を判定する方法のひとつが、四診と呼ばれる“望診・聞診・問診・切診”です。
四診によって、本人が訴える症状や、体格などの要素から患者個人が持つ“証”を判別します。[=虚証・実証、陰証・陽証、寒証・熱証、気血水など]
漢方医学では、その“証”に合った漢方薬が処方されます。[=葛根湯証や柴胡証など]
これら証に従って、個別に治療の指針を決めることを“随証治療”といいます。
西洋医学の考え方
一方、西洋医学による診断と治療では、患者の“病名”を判定することが目的となります。
病名を判定する方法として、視診や問診、打・聴・触診、臨床検査による検査成績などを用います。
このように、なぜ体の調子が悪いのか、原因を追究するのです。
西洋医学では、この病名に従って薬が処方されるのです。
漢方医学と西洋医学の違い
漢方医学と西洋医学の違いを示してみました。
西洋医学では、血圧が高ければ降圧剤、浮腫があれば利尿剤、痛みがあれば鎮痛剤を使うなど、症状に合わせて病名が付けられ、それに伴って処方薬を決定します。
一方、漢方医学では、個人を総合的な観点から見る[=全人的といいます]ことで、証を判定し、それに伴って処方薬や生活指導を行います。
気血水とは?
患者の証を判定する指標のひとつが“気血水”です。
生体の恒常性は、気・血・水の3つの要素が体内を循環することで維持されると言われています。
気:目には見えない生命エネルギー。活力・生命機能を維持するエネルギーのこと。
血:生体を物質的に支える赤色の液体。血液やホルモンのこと。
水:生体を物質的に支える無色の液体。体液や細胞液、消化液のこと。
慢性疾患では、気・血・水のいずれかに異常がある場合があるため、それぞれの異常を補う漢方薬が選ばれます。
先天の気と後天の気
気は、大きく“先天の気”と“後天の気”に分かれます。
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先天の気:誕生するときに両親から授けられた生まれ持っている気
⇒臍から下の部分=腎に宿るとされています -
後天の気:誕生後に生命力を維持するために生体内に取り入れる気
⇒臍より上の部分に宿るとされています。
後天の気は、さらに“水穀の気”と“宗気”に分かれます。
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水穀の気:母乳や飲食物から取り入れる気
⇒脾[ここでは上部消化管の意]に宿るとされています。 -
宗気:呼吸によって外界から取り入れる気
⇒肺に宿るとされています。
水穀の気、宗気からは“血”や“水”が産生されます。
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血:水穀の気、宗気から産生された赤い色に変化したもの
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水:水穀の気、宗気から産生された無色のもの
血や水は、身体を潤し、栄養を与え、身体を支える体液です。
気の異常:気虚、気滞(気うつ)、気逆(気上衝)
気の異常は、“気虚”、“気滞(気うつ)”、“気逆(気上衝)”に分類されます。
気の異常は、単独ではなく、同時に起こることが多いと言われています。
気虚
気の量が不足した状態です。
気力低下、疲れ・倦怠感、食欲不振、声や眼に力がない、下痢、内臓下垂
- 人参[人参湯、呉茱萸湯]
- 黄耆[補中益気湯、黄耆建中湯]
- 白朮[人参湯、四君子湯]
- 茯苓[四君子湯、茯苓飲]
- 甘草[人参湯、小建中湯]
- 大棗[六君子湯、小建中湯]
気滞(気うつ)
気は、消化管の運動による上から下に流れる方向と、血液(宗気)が心臓から末梢へ流れる方向の2つの流れがあります。
これら2つの気の流れが停滞、うっ滞した状態が気滞(気うつ)です。
抑うつ、喉のつかえ感、胸のつまった感じ、腹部膨満感、四肢のしびれ
- 厚朴[半夏厚朴湯、柴朴湯]
- 香附子[香蘇散]
- 半夏[半夏厚朴湯]
- 枳実[四逆散、柴胡疎肝湯]
- 木香[女神散]
気逆(気上衝)
気が一時的に逆行した状態です。
冷えのぼり、驚きやすい、発作性の頭痛、動悸、顔面紅潮
- 桂皮[苓桂甘棗湯、桂皮人参湯]
- 半夏[越婢加半夏湯]
- 五味子[苓桂味甘湯]
- 黄連[黄連湯]
- 呉茱萸[呉茱萸湯]
血の異常:血虚、瘀血
血の異常は、“血虚”、“瘀血”に分類されます。
血虚
文字通り、血の量が不足した状態です。
栄養が行きわたらず皮膚や爪、毛に症状が出ます。
不眠、顔色不良、めまい、爪がもろい、肌が荒れる、抜け毛が多い、手足のしびれ、こむら返り、月経不順
- 地黄、芍薬、当帰[四物湯、当帰飲子、温清飲、薏苡仁湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯]
- 何首烏[当帰飲子]
- 酸棗仁[酸棗仁湯]
瘀血
血の流れが遅くなり、滞った状態です。
血液成分が濃縮された状態でもあります。
月経異常、便秘、頭痛・頭重、めまい、のぼせ、手足の冷え・ほてり
浅黒い顔色、舌や口唇の暗赤色化、手掌紅斑
- 牡丹皮[桂枝茯苓丸、大黄牡丹皮湯]
- 桃仁[桃核承気湯]
- 芍薬[桂枝茯苓丸、当帰芍薬散]
- 当帰[当帰芍薬散]
- 川芎[当帰芍薬散]
- 大黄[大黄牡丹皮湯、桃核承気湯]
水の異常:水毒(水滞)
水の異常は、口から入った水分だけでなく、組織液や分泌液、浸出液の流れがうっ滞した状態であり、この状態が“水毒(水滞)”です。
身体全体の水が過剰となっていることもあれば、関節だけ、上気道だけのように一部過剰になっていることもあります。
浮腫、胸水・腹水、尿量の減少、拍動性の頭痛、気圧や天候に左右されるめまい、口渇、耳鳴り
- 茯苓[五苓散、真武湯]
- 白朮[半夏白朮天麻湯]
- 麻黄[小青竜湯]
- 猪苓[猪苓湯]