2018年診療報酬改定が迫っており不安な日々が続いているかと思います。調剤薬局に働く薬剤師として、今薬学生に知ってもらいたい内容をまとめてみました。
医療業界全体の先行きが不安定
就活前の薬学生に是非とも知ってもらいたい現場のリアルな話、とりあえず今回で締めくくりの予定をしています。
第1回では、調剤薬局の現状についてと今後調剤薬局業界が厳しくなることを紹介しました。
第2回では、ここ数年で変わりつつある調剤薬局業界と、これからの薬局薬剤師について非常にネガティブな話をお伝えしました。
第3回となる今回は、調剤薬局業界だけでなく実は医療業界全体がかなり危ないという私の意見を紹介します。
まだ第1回、第2回を読んでない方は、まずは第1回から読んでみてくださいね。
調剤薬局でなければ、未来はあるのか?
かなり厳しい意見を述べましたが、私が思うに今後経営が厳しくなるのは調剤薬局業界に限ったことではなく、医療・介護業界全体に言えることと考えています。
また、製薬企業や医薬品卸にとっても同様のことが言えると考えています。
病院薬剤部の今後
設備投資ができてない
薬局経営よりも病院経営の方が個人的には厳しいように感じています。
実際、2016年度の損益率を調剤薬局と一般病院で比較してみると、調剤薬局が7.8%の黒字に対し、一般病院では-4.2%と赤字経営でした。
最近では病院経営を立て直すための医療コンサルタントという職業の方が増えていますし。
財源がないのは調剤薬局と同様ですが、調剤薬局以上に設備投資が追い付いておらず、昔からの方法を続けている印象を受けます。
入院から在宅への移行が加速していますが、一包化されていない患者も多いです。
この一包化されていないことって、高齢者にとっては飲み忘れの大きな要因なんですよね。
病院内調剤では、そもそも一包化加算が取れないため、調剤機器の機械化が進んでいないのかもしれません。
このような背景から、一般病院における2016年度調剤用機器への設備投資は、2015年度の1.3倍の費用をかけています。
薬剤部に予算が下りても設備投資が第一となり給与面に反映されることは現時点では難しいと考えられます。
製薬企業の今後
国内市場は飽和状態
製薬業界で好調なのは、実は国内向けの製品ではなく海外向けの製品です。
日本国内では、製薬企業の収入源である薬の価格=薬価の引き下げが続いています。
新薬を開発しても、薬価の引き下げが激しかったり、後発医薬品へ移行するためめ、業績は悪化の一途をたどるかもしれません。
製薬企業の中で薬剤師が活躍できる場として、研究・開発職、品質管理・品質保証、学術、MR職などがあります。
MR職以外については、今後も薬剤師が活躍できる場があるでしょう。
しかし、今後Webセミナーや動画コンテンツの活用でMR職の活躍する場は狭まると考えています。
自宅で好きな時間に薬の情報が得られる動画コンテンツは、実際とても便利です。
残念なことに、MR職の約80%は非薬剤師です。
つまり、薬剤師の知識は必ずしも必要とはしない仕事なんですよね。
最近では、薬局内勉強会や地域勉強会でも製品紹介の動画を流して終わりといったMRさんが増えてきており、これはとても残念に思います。
2018年1月には、MR職の早期退職についてYahoo!ニュースに取り上げられていたのも記憶に新しいかと思います↓
https://diamond.jp/articles/-/155776
また、2018年6月の週刊東洋経済では、MR不要論について言及されています。
MRを目指す予定の学生さん、こんなはずじゃなかったと思う前に一読してみてはいかがでしょうか?
医薬品卸の今後
後発品への対応、他事業への参入次第
医薬品卸売業もますます厳しくなっています。
経営状況の悪くなった調剤薬局や病院からは価格の引き下げ要求がさらに強くなるでしょう。
また、先発医薬品を主に扱っている大手医薬品卸は、後発医薬品の売り上げを伸ばさなければなりません。
さらに医薬品だけではなく、病院・クリニック、調剤薬局のサポート業務[薬局では、在庫管理システムやe-learning、集客システム導入、期限切迫品の転売]など他事業でどれだけ利益が取れるかも今後の業績を左右するかと思います。
2017年11月、医薬品卸大手のスズケンさんでは早期退職者が400人を超えたとニュースになっています↓
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23868020U7A121C1L91000/
一番明るい業界はドラッグストア?
私は、国の求める薬局像=健康サポート薬局に一番近いのはドラッグストアであると考えています。
医療費を下げるために個人ができる事といえば
- 病気の予防に取り組む=食事、運動療法
- 病院に行く前に自分で治療する=セルフメディケーション
- 入院せず在宅医療を受ける=地域医療、地域包括ケアシステム
この3つが主ではないでしょうか?
調剤薬局よりも現時点ではドラッグストアの方が近いと思います。
特にセルフメディケーションの分野で欧米のやり方に習うなら、同じロキソニンでも医療用医薬品は保険適応がなくなり一般用医薬品を買うよう促す時代になるかもしれません。
ビタミン剤、うがい薬、湿布、保湿剤と年々保険適応について問題視されている薬が増えてきてますしね。
ドラッグストア業界の調剤の伸びはとても顕著です。
もし今後ドラッグストア業界が、今まで以上に本気で地域医療や在宅医療に取り組めば、大手調剤薬局を押しのけて調剤薬局業界のトップに立つ可能性は十分にあると考えてます。
現に大手ドラッグストアでは、在宅医療に取り組める薬剤師の募集を積極的に行っています。
だからと言って、ドラッグストア業界に就職してほしいと思っているわけではありません。
大手になればなるほど、患者よりも株主が優先となり、結局、利益>医療となってしまう場合が多いのです。実際に大手ドラッグストアで働いている友人からも、数字の追求が厳しく、対人業務に対する評価が低いと聞いています。
薬学生へのメッセージ
薬局業界を含めた医療業界において私が思うことをお伝えしてきました。
“自分がどのような薬剤師になりたいのか”
進みたい職種が調剤薬局でも、病院でも製薬企業・卸、ドラッグストアでも一緒です。
どの職種でも患者さんあってこそなので、病気の人を救いたいと思う一方で、病気の人がいなくなると困るという矛盾と闘わなければなりません。
これからの時代に備えて、事前にしっかりとしたビジョンを持ちましょう!
私は今後も調剤薬局で働き、薬剤師の地位が少しでも上がり医療費の適正化に貢献できたらいいなと思ってます。
最後に調剤薬局が赤字にならず患者目線の医療をするには、今、そしてこれからどう在るべきかまとめたいと思います。
非薬剤師と協力しあって働きやすい職場を作る
調剤薬局を運営した際、最もコストが掛かるのは人件費です。
そのため、人件費をなるべく安くしなければなりません。
調剤薬局の仕事内容は、対物から対人へとシフトしています。
このシフトには欧米でいうテクニシャンのような非薬剤師の協力が不可欠です。
どこまでが薬剤師の業務なのかといった線引きは難しいところですよね。
実際の例では、ピッキングだけでなく一包化や在宅医療における患者家族との契約、在庫管理の補助などを非薬剤師に任せているようです。
2019年4月2日に厚生労働省が“調剤業務のあり方について”という通知を発表しました。
これにより、これまでグレーゾーンとされていた、非薬剤師のピッキング等が認められることになりました。
現状、調剤薬局に勤務する事務員の給与は高いものではありません。
これは、電子薬歴や2次元バーコードの普及などで、調剤薬局事務の仕事内容の簡素化が進んでいることも影響しています。
いずれ、電子処方箋が誕生し、処方箋入力作業やレセプト請求の方法がさらに簡素化され事務員の仕事が無くなることでしょう。
そこで、薬剤師の補助に回ってもらう非薬剤師の仕事量が増え、事務員よりも給与が上がっていくと考えています。
一方で薬剤師は、これまでピッキングや一包化に費やしていた時間を、対人業務に費やすことができます。
これまでは、薬を渡して終わりということが多かったのですが、今後は薬を渡した後のフォローができる薬剤師が評価されると考えられます。
健康相談、外来、かかりつけ薬剤師、在宅医療
国は調剤薬局に健康相談の窓口になってもらいたいと考えています。
- 一般用医薬品で対応できるものは一般用医薬品で対応する
- 必要な場合はクリニック受診勧奨
- 認知症の疑いがあれば地域包括支援センターに紹介する
- お薬の管理ができていなければ患者の家に訪問、改善がなければ在宅医療
主にこの4つ役割が求められています。
ただこの4つのうち、調剤薬局を運営する上で利益が取れるのは、一般用医薬品の販売と在宅医療のみになります。
ロンドンの薬局では、身長・体重・血圧・コレステロール値・血糖値の血液検査・飲酒量や運動などの生活習慣・家族の疾患歴などを基に健康診断を行っています。
40-74歳の方は自己負担なく無料で受けられます。
薬局へは25ポンド[約4500円]が国民保健サービス[NHS]より報酬が支払われるといった仕組みですが、日本ではそのような仕組みがなく全てサービスか自費となります。
現時点では、予防に対して利益をとることができませんが、いずれサービスで行っている業務が何らかの形で認められないと、中小調剤薬局の経営は厳しいかと思います。
医師、看護師、ケアマネなど多職種とのチーム医療
今後診療報酬で評価されるのは、対物業務から対人業務へと変わっていきます。
対人業務とは何かというと、
- 多剤投与[ポリファーマシー]の適正化
- 重複投与の防止
- 残薬の削減
- 残薬の整理
- 小児疾患、認知症、緩和ケアへの対応
- かかりつけ薬剤師
- 在宅医療[施設ではなく居宅・個人在宅]
このあたりの業務が該当するでしょうか?
医療費を抑制するために、薬剤師として何ができるかを常に考えるようにしましょう!
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/386509/
今後、これまで当たり前のようにもらっていた調剤報酬のハードルがぐーんと高くなると私は考えています。
薬学生へのメッセージまとめ
以上をまとめると、目の前の利益追求を必死に行っている職場[薬局]はオススメできません。
前回も紹介した薬剤師業務の負のサイクルに陥ってしまいます。
この負のサイクルをどうすれば正のサイクルに変えることができるか?
診療報酬の流れから行くと、今後はいかに多職種連携および対人業務に取り組める環境を作るかに掛かっているのではないでしょうか?
だからといって、個人的には“患者第一主義”の薬局もおすすめしません!
近年、“ブラック企業”や“パワハラ”という言葉が横行してますが、中小規模の会社が多い薬局業界でも当てはまる部分は多いかと思います。
患者第一主義になってしまうと、必要以上のサービスを提供することになり、個々に掛かる負担が大きくなってしまいます。
この負担が継続、慢性化してしまうと働きすぎのブラック企業や精神的余裕がなくなりパワハラに発展したりするのです。
では、どのような薬局がいいのでしょうか?
あくまでも私の意見ですが、一番に考えるべくは会社[株主]でもなく患者でもなく“従業員=私たち”です。
実際に、幸福な社員は不幸な社員よりも創造性が3倍高く、生産性が1.3倍高いという研究結果が出ています。
それに加え、欠勤率や離職率が低い、同僚を助ける、売上が多いといった傾向があることも解明されています。
つまり、従業員のことを一番に考えている薬局[会社]は、従業員満足度が高く、自らの意思で多職種連携や対人業務に取り組むことができ、患者満足度が上がるといった正の仕事サイクルに繋がる可能性が高いと言えるのです。
なので、薬局の就職で迷った場合は、“会社の理念”を聞いてみてください。
会社[株主]が一番大事なのか、患者が一番大事なのか、従業員が一番大事なのか・・・
診療報酬が下がる中、昔のやり方では通用しなくなってますので、薬局なんてどこも同じでしょと言った考えは間違ってると思うので。
最後に・・・
仕事に費やす時間というのは、人生の大部分を占めるものになります。
安易に就職先を決めずに、多くの先輩方や先生に頼って良い職場に出会えることを願っています。
個々の相談に乗ることは難しいかもしれませんが、薬局業界で知りたい情報があれば可能な限りお答えしますので、コメントや問い合わせから質問してみてください。