調剤薬局で服薬指導をしていると、患者さんが漢方薬について誤解しているなぁと思うことがあります。
たとえばこんな感じ↓
患者1
患者2
確かに、西洋薬よりも副作用の頻度は低く、高齢の腎機能低下患者にも使いやすいと思います。
ただ、副作用が全くないわけではなく、その中でも一番身近な「甘草」について調べてみました。
甘草は漢方薬の7割以上に含まれる
なぜ甘草の副作用が重要かというと、漢方薬の約7割に生薬成分として甘草が含まれているのです。
使用頻度の高いツムラの漢方薬上位5品目の生薬成分を見てみましょう!
大建中湯
- 山椒(サンショウ)
- 人参(ニンジン)
- 乾姜(カンキョウ)
- 膠飴(コウイ)
芍薬甘草湯
- 甘草(カンゾウ)
- 芍薬(シャクヤク)
抑肝散
- 当帰(トウキ)
- 釣藤鈎(チョウトウコウ)
- 川芎(センキュウ)
- 蒼朮(ソウジュツ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 柴胡(サイコ)
- 甘草(カンゾウ)
葛根湯
- 葛根(カッコン)
- 大棗(タイソウ)
- 麻黄(マオウ)
- 甘草(カンゾウ)
- 桂皮(ケイヒ)
- 芍薬(シャクヤク)
- 生姜(ショウキョウ)
六君子湯
- 人参(ニンジン)
- 蒼朮(ソウジュツ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 半夏(ハンゲ)
- 陳皮(チンピ)
- 大棗(タイソウ)
- 甘草(カンゾウ)
- 生姜(ショウキョウ)
このように便秘などで使われる大建中湯以外の4品目については、甘草が含まれているわかります。
甘草の副作用:偽アルドステロン症の症状と機序
これだけ多くの漢方薬に甘草が含まれているため、甘草の薬効成分であるグリチルリチン酸の摂りすぎに注意しなければなりません。
甘草を摂りすぎると、「偽アルドステロン症」と呼ばれる副作用を生じることがあります。
偽アルドステロン症の症状
偽アルドステロン症の初期症状は、浮腫や血圧の上昇です。
進行すると、全身の筋肉の脱力感や倦怠感、ミオパチー、不整脈などさまざまな症状が現れます。
採血時には、低カリウム血症やCK値の上昇の確認を行う必要があります。
アルドステロンとは、副腎皮質ホルモンのひとつであり、鉱質コルチコイド[ミネラルコルチコイド]と言われます。
遠位尿細管のNa-K血液中のナトリウム濃度を上昇させ、カリウムの排泄を促進します。
その結果、血圧を上昇させるホルモンです。
アンジオテンシノーゲンは、腎臓から分泌されたレニンによりアンジオテンシンⅠ、肺から分泌されたアンジオテンシン変換酵素[ACE]により昇圧物質アンジオテンシンⅡに変換されます。
アンジオテンシンⅡにはAT1受容体に作用することで、直接的な血管収縮作用とアルドステロンを介した循環血液量を増やす作用によって血圧を上昇させます。
これらの経路を、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系と呼びます。
このアルドステロンが過剰に分泌される病気が「アルドステロン症」と呼ばれています。
偽アルドステロン症とは、血中のアルドステロン濃度は変わらないのにアルドステロン症と同様の症状が現れます。
発症する機序は、甘草の主要成分であるグリチルリチン酸が腎臓においてアルドステロンの代謝酵素を阻害するためと考えられています。
増加したアルドステロンが、ナトリウムの再吸収を促進、カリウム排泄を増加させることで、低カリウム血症を生じてしまうのです。
甘草の1日量の上限
甘草の1日量について現在は特に定めはありません。
しかし、厚生労働省からは、2016年までは以下のように定められていました。
甘草の1日最大配合量:5g=グリチルリチン酸として200mg
[1978年:薬発第158号]
芍薬甘草湯など短期的に服用する場合は例外であるとされています。
また、1日量として甘草を2.5g以上含有する製剤は、低カリウム血症のある患者には禁忌となっています。