この度、PTAや保護者・学校関係者向けに薬物乱用防止教室を開催することになりました。
小学校や中学校、高校では定番となった薬物乱用防止教室ですが、PTA・保護者向けにする機会は少ないのではないでしょうか?
子供向けを内容をPTAや保護者・学校関係者にすると少し違和感があるなと思ったので、今回はパワーポイントを使ってスライドを自作してみました!
このページでは、30分程度の講演で必要な情報を、自分の情報整理のためにまとめてみましたので、良ければ参考にご覧ください。
子供向けの薬物乱用防止教室スライドについて
子供向けの薬物乱用防止教室は沢山の学校薬剤師の方が行っているかと思います。
いくつかスライドも見せて頂きまして、次の3つに重点が当てられているかなと感じました。
- 薬やタバコ・お酒の影響・注意点
- 乱用薬物を使用するとどのような影響があるのか
- 乱用薬物を使わせるためのさまざまな誘惑について
子供向けの教室だけあって、少し内容が簡単な印象でした。
例えば、
- 薬は決められた飲み方で飲むという説明
- タバコによって肺が真っ黒になる、がんになりやすくなること
- 乱用薬物は一度使うと止められなくなるということ
子供を持つ親なら、これらのことは浅いながらも知っているのでは?と思いました。
今回は、PTAや保護者・学校関係者向けの薬物乱用防止教室なので、もう少し踏み込んだ内容でスライドを作成してみることにしました。
具体的には、次の3つの疑問について解説します。
- なぜ乱用薬物は一度使うと止められないのか?
- 乱用薬物を繰り返す人はどのくらいいるのか?
- どうすれば薬物乱用を防ぐことができるのか?
なぜ乱用薬物は一度使うと止められないのか?
乱用薬物の話に入る前に、まずは一般的な“薬”について考えてみましょう!
私たち薬剤師は、薬を渡す際に
- 種類、量
- 飲むタイミング
- アレルギー
- 飲み合わせ
- 副作用
- 薬の効き目
- 漫然な投与
などについて、間違いがないか、不具合はないか確認をしています。
1-4の項目は薬を飲む前の注意点、5-7の項目は薬を飲んだ後の注意点です。
乱用薬物で最も注意しなければならないのは、後者の薬を飲んだ後の注意点となりますので、もう少し詳しく見てみましょう!
くすりはリスク
日本は医療保険制度が整っているためか、日本人は薬好きと言われており、ちょっとしたことで薬を出すことが多いように感じます。[実際は、医薬分業が進み処方箋料の請求ができることが大きいとは思いますが]
近年医療業界で問題となっている言葉のひとつが“ポリファーマシー”という言葉。
一般的には6種類以上の薬を飲むことを指しています。
実際に、70歳以上で薬を服用している方は、平均6種類以上の薬を服用しているという調査結果があります。
なぜ6種類以上の薬を服用するポリファーマシーが良くないかというと、6種類以上の薬を飲む患者は、副作用のリスクや転倒の頻度が2倍近く増加するといった報告が上がっているためです。
くすりを反対から読むとリスク。
副作用などのリスクを伴うため、必要な薬を必要時のみ服用しなければならないのです。
耐性と2つの依存について
乱用薬物で問題となるのは、薬を一度使うとなかなか止めれないということ。
実は、乱用薬物に限ったことではなく、睡眠薬や精神安定剤など身近な薬にも当てはまることなのです。
身近な薬で起こる耐性と2つの依存について見てみましょう!
まずは、薬の耐性です。
これはわかりやすいと思います。
同じ薬を飲み続けていると、身体が慣れてしまって薬の効きが悪くなってくることです。
そのため、最初1錠飲めば寝れていた睡眠薬が2錠に増えたり、他の種類の睡眠薬を追加したりということが起こるのです。
次は薬の依存についてです。
依存には、身体依存と精神依存の2つがあります。
身体依存とは、薬が減ったり無くなったときに、退薬・離脱症状が出てしまうことです。睡眠薬の場合は、震えや不安、不眠などの症状が出ることがあります。
精神依存とは、薬が無くなったときに、なんとか薬を手に入れようと薬を求める状態が続くことを指します。睡眠薬の場合は、薬を求めに病院や薬局へ出向くことを指します。
結論:脳に作用するものは自分の意思では止められない
睡眠薬を例に挙げましたが、身近なものではタバコやお酒も当てはまります。
薬やお酒、タバコを始める際は、耐性も依存も形成していないため、軽い気持ちで初めてしまいます。
しかし、一度身体に取り込まれてしまうと、脳に作用するのです。
脳がこれら薬やお酒、タバコを欲してしまうため、結局自分の意思では止めれなくなってしまうのです。
乱用薬物を繰り返す人はどのくらいいるのか?
乱用薬物だけではなく、睡眠薬や精神安定剤などの薬・お酒・タバコなどの脳に作用するため、自分の意思では止めれないと紹介しました。
では、実際どのくらいの人が乱用薬物を繰り返し使用しているのか?
まずは、ここで乱用薬物とはどういったものを指すのかについて確認してみましょう!
乱用薬物とは?
乱用薬物とは、主に次のような薬物を指します。
- 覚せい剤
- 麻薬[例.ヘロイン、コカイン、MDMA、あへん]
- 大麻
- シンナー
- 幻覚性きのこ
- 危険ドラッグ(旧名:脱法ドラッグ)
これらの違いは、薬物の作用だけではなく、耐性や依存の強さ、中毒症状が異なってきます。
一般的に、あへんなど中枢神経抑制作用をもつ薬物は、精神依存と身体依存を持っています。
一方、覚せい剤やコカインなど中枢神経興奮作用をもつ薬物は、精神依存を持っていますが、身体依存の影響は小さいと言われています。
乱用とは?
乱用とは、社会で決められた“ルールを逸脱すること”を指します。
そのため、未成年の場合、タバコを吸う・お酒を飲む行為も乱用となります。
乱用という言葉からは繰り返し使用することが連想されますが、たとえ1回の使用でも乱用となります。
乱用を続けることで、先ほど紹介した耐性・身体依存・精神依存だけでなく、薬物中毒が問題となります。
薬物乱用時には、急性の薬物中毒に陥る場合があり最悪の場合死に至ります。
薬物乱用を繰り返すと、薬物依存状態になり、最終的には慢性の薬物中毒に陥り幻覚や妄想などの中毒症状が生じます。
薬物依存や薬物中毒者の実際の行動
薬物依存状態や薬物中毒の症状について、あまり身近ではないため想像しがたいかもしれません。
ここでは、実際に家族が経験したことをまとめたアンケート結果を紹介します。
薬物依存症者の行動 | 経験した家族 |
感情の起伏が激しく、人が変わったようになった | 93% |
薬物を買うために嘘をついた | 84% |
薬物について尋ねると不機嫌になった | 81% |
意味不明な話をしたり行動がまとまらないことがあった | 78% |
家の中で薬物を使用した | 76% |
薬物使用の道具が出てきた | 76% |
薬物使用を見つかって開き直ったことがある | 69% |
薬物を使って大声を出したり暴れたりした | 68% |
薬物が原因で仕事を解雇された | 68% |
薬物が原因で身体的問題が起き、受診した | 67% |
本人が作った借金の督促が来たことがある | 67% |
薬物を使って暴力を振るうことがあった | 61% |
薬物使用のために補導・逮捕されたことがある | 61% |
[精神科治療学、19(12);1419—1426、2004より改変]
少し古いデータですが、乱用薬物の恐ろしさが分かるアンケート結果となっています。
これらアンケート結果の行動は、薬物依存症状と薬物中毒症状によるものです。
薬物中毒は治療をすれば治りますが、薬物依存は一生治らないため“再犯”が起こってしまうのです。
つまり、一度の薬物乱用が一生を狂わせることになるのです。
結論:薬物依存が治らず半数以上が薬物乱用を繰り返す
実際の再犯率のデータを見てみましょう!
平成20年-29年までの覚せい剤検挙者のうち再犯者がどのくらいだったかを示したデータです。
検挙人数 | 再犯者数 | 再犯者比率 | |
H20年 : | 11,231人 : | 5,849人 : | 52.1% : |
H25年 | 11,127人 | 6,989人 | 62.8% |
H26年 | 11,148人 | 7,190人 | 64.5% |
H27年 | 11,200人 | 7,237人 | 64.6% |
H28年 | 10,607人 | 6,879人 | 64.9% |
H29年 | 10,284人 | 6,740人 | 65.5% |
検挙者の半数以上が再犯者であり、再犯者の割合が増加傾向ということがわかります。
どうすれば薬物乱用を防ぐことができるのか?
薬物全体がどれだけ怖いかということは分かっていただけたかと思います。
あとは、どうすれば薬物乱用を防ぐことができるかを考えてみましょう!
薬物乱用者の背景についてまとめてみました。
薬物検挙人数は横ばい
平成20年-29年にかけて、薬物で検挙された人数は横ばいです。
一時期下がってはいましたが、近年はやや増加傾向であることがわかります。
青少年に対象を絞ってみると、
覚せい剤は減少傾向ですが、大麻での検挙人数が増えている点が特徴です。
なぜ大麻乱用者が増えているのか?
大麻乱用者に対するアンケート結果がありましたので、3つ紹介します。
大麻の危険性の認識
まずは、大麻の危険性についてです。
[警察庁組織犯罪対策部:平成29年における組織犯罪の情勢]
覚せい剤を危険と思っている一方で、大麻を危険と思っている割合がかなり低いといった結果になっています。
大麻の危険性について、ひとつはインターネットの情報によるものが大きいと考えられます。
大麻やマリファナ、合法で検索すると、このようなタイトルの記事が挙がってきました。
また、ツイッターでは、“大麻”と検索するだけで無数のツイートが挙がってきます。そのほとんどが大麻擁護のツイートです。
私なりに調べてみましたが、確かに大麻の安全性・危険性については、意見が割れているようです。論文を見る限り、現在進行形で身体に対する影響について研究が行われており、特に青少年に対する有害性について報告されています。
よって、現時点で言えることは少なくとも次の3つかなと考えました。
- 大麻は、他の薬物より弱いが、耐性・身体依存・精神依存を形成する
- 大麻は、特に未成年の認知機能低下・記憶障害を引き起こす
- カナダで合法化された理由の一つは、未成年に大麻が出回らないようにするため。安全だからではない。
大麻を始めたきっかけ
次に大麻を始めたきっかけについてです。
[警察庁組織犯罪対策部:平成29年における組織犯罪の情勢]
半数以上の方が、周りから誘われて大麻に手を出しています。
20歳未満に絞ってみると、80%以上となりより顕著な結果となっています。
さらに詳しく大麻を使用したきっかけ、動機についてです。
[警察庁組織犯罪対策部:平成29年における組織犯罪の情勢]
若い世代はその場の雰囲気で使用する傾向があるようです。
一方で、年齢上がるとストレス発散や現実逃避、快楽を求めて使用する割合が高くなっています。
大麻は簡単に手に入る
厚生労働省の調査では、大麻を含む薬物が簡単に手に入ると考えている若者が多いことがわかっています。
■薬物がなんとか手に入るor簡単に手に入る
⇒10代の約4人に1人
■過去1年以内に薬物使用経験のある知人がいる
⇒10代の約28人に1人
薬物乱用者を増やさないためにできることを考えてみた
ここからはあくまでも私見です。
これまでのアンケート結果から、若者の考えは次のような感じでしょうか?
“薬物、特に大麻は簡単に手に入るし、周りに使っている人もいる、インターネットやSNSでは安全と書いてあるし危険なものではなさそうだし、一度使ってみようかな?”
この誤った考えを持たないようにするため、学校・家庭それぞれで薬物乱用に関する教育を行わないといけません。
小学校・中学校・高校では、それぞれ薬物乱用教室というものを学校薬剤師等が行っていますが、ただ話を聞いて終わりではなく生徒に考えさせ発表してもらうなど能動的な授業[アクティブラーニング]が必要かと思います。
家庭では、スマホや携帯電話を子供に持たせるということは、大きな責任が伴うということを認識しないといけません。インターネットやSNSで情報を簡単に入手できる時代です。スマホや携帯電話を子供に持たせた親の責任でもありますよね。
スマホや携帯電話を持たせるときに、してはいけないことを取り決めるなどし、場合によってはフィルタを掛けるなどの対策が必要かと思います。
結論: 正しい知識が身に付けられる環境をつくる
以上のことから、学校と家庭それぞれが子供のために必要な環境を作ってあげる必要があります。
そして、最終的には次の3つの勇気を持たせることが理想となります。
- 誘われてもNOと言える勇気
- その場から逃げる勇気
- 友達・家族に相談する勇気
特に3番目の友達・家族に相談する勇気が大事かなと思います。
薬物を使ってしまった本人が相談できなくてもいいんです。薬物を使っていることを知った友達が大人に相談できる環境、窓口があるという認識を持つだけで変わるのではないでしょうか?
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/other/madoguchi.html
薬物乱用者の実際
百聞は一見に如かず
人から聞いたり、このような文面を読むよりも、薬物乱用者の生の声を聞く・見るのが一番かと思います。